カメカミ幸福論
「小暮は、いい男だと思う。外見も中身も。なのに何で私とこんなところにいるの?」
小暮は、苦笑した。
「何でって・・・誘ったの俺なんだけど?っつーか、それって遠まわしな拒否か?」
彼も冷蔵庫から出したばかりのペットボトルを大きく呷って水を飲む。目はじっと私を見ていた。
「そうじゃなくて、本当に不思議なのよ。私がモーションかけて、あんたが仕方なく応えたのとは違う。どうして仕事のやる気もない、女も捨ててる、しかもあんたに興味がなかった私を誘ってくれるわけ?うちの会社は小さいけど、可愛い子だって素敵な子だって沢山いるでしょう」
特に営業課には。それは心の中で付け加える。
皺もシミも出てきている30代の女。毎日にハリがなくて、ダンにも言われた通りに生き生きしているって表現からは遠すぎる場所にいる女だったはずだ、私は。それが、どうして。
小暮がうーんと唸りながら、水をデスクに置いてネクタイをしゅるりと外す。思わずそれを目で追ってしまった。
「そんなことをこの状況で聞かれるとは。・・・まあ、酒に酔っ払ってわけも判らない状態のカメよりはいいに違いねーけど。てかお前、酒に強いよな」
次は靴下を脱ぎながら、小暮は私を見て首を傾げた。
「俺がカメに告ったのは忘れてないよな?」
「そ、それは覚えてるわよ」
自分から振った話とはいえ恥ずかしい内容に、酔いが段々醒めてきたのを感じた。涙目の上に赤面なんて、醜いわよ私!てか、どうしてあんたは照れもしないでそんな事が言えるのよ~!