カメカミ幸福論
「今日も会社だし、私一度家に帰るから先出るね。自転車会社に置きっぱなしだし」
よく考えたら昨日、小暮に電車で送って貰ってたら自転車は放置になっていたのだった。その点だけを考えると、お泊りして良かったというか、なんというか。
恥かしくてヤツの方をろくに見ないで早口にそういう。同じ格好での出社はちっとも気にしないが、化粧だけはしなくてはならない。化粧直しをしない私の化粧道具は全部部屋だし、今からなら部屋に戻ってからの出勤でも十分間に合うのだ。
んー・・・と寝ぼけた声での返答が聞こえた。ぼーっとしているらしい。小暮はベッドの上に起き上がりはしたが、まだ羽毛布団に包まれたままでほとんど目が開いていない。
ちょっとちょっと、大丈夫なの、こいつ?
私は鞄を持った状態で若干心配になりながら声をかけた。
「小暮は家に戻るの?服とか、着替えなくていいの?」
ごしごしと手で顔をこすってから、ようやく少しハッキリとした声で小暮が言った。
「・・・大丈夫。急な出張に備えて、シャツと下着は鞄に常備してる」
あ、そう。私は肩を竦めた。
「じゃあ私、行くからね。ええと・・・それで、お金、どうしたらいい?」
財布を出して小暮を見る。昨日の飲み代もあるのだ。一円も払わずに帰るのは、気持ちが悪い。
ところが顔から手をどけた小暮は、やっとこっちを見てニッと笑った。
「いらねー。金貰うと、なかったことにされそうで嫌だから」
「え?」