カメカミ幸福論
きっと眉間には皺がよっていたはずだ。とにかく時間がなかったから、私はパッと着替えて菓子パンを口に突っ込みながら簡単な化粧をする。
それからもう一度、自転車に乗って会社へ向かった。
慣れ親しんだ景色のどこを見ても、何かが足りない、そんな感じがするのだ。気持ち悪い。ぶすっとした顔のままで自転車を漕ぐ。
何かを忘れてる?でも思い出せない?・・・なら、もうそのままでもよくない?
「だって思い出せないってことは、それほど重要じゃなかったってことなんでしょ」
声に出して言ってみて、そりゃそうよねと確認する。
きっとすぐ忘れちゃうようなことだったんだろうって。だって、思い出せないんだもの。それについて考えて頭を疲れさせる必要なんてないじゃないの?今日だって、あのやたらと複雑な計算がまってるはずだし・・・。
「あ」
そこで、私は社員通用口の前で手を大きく振る後輩の美紀ちゃんをみつけた。
だから変な気持ち、は速攻で捨てた。だって、あの子に色々聞かれるだろう。その方が今は大変なんだわ!そうに決まってる。
小暮と付き合うようになったって、どうやって話そうかな―――――――・・・
多少うんざりしながら、それでも長い間忘れていた自分が主人公の恋愛話をする高揚した気分を思い出した状態で、私は美紀ちゃんへと向かって行った。
この時、その気持ち悪い「忘れている何か」のことは、完全に放棄したのだった。