カメカミ幸福論
第5章 神、帰還する
・お局OL恋愛中
9月になっても残暑は厳しかった。
毎日出勤中にかく大量の汗は変わらず、そのお陰で会社につくころには化粧がはげている私はなんと、化粧ポーチを持ち歩くようになったのだ。
勿論それは、汗だけの問題じゃあない。こそばがゆいけれど、恋人になってしまった小暮の為、いや、ひいてはやつに良く思われたいという私の願望の為であった。
今まで、あーんなに何にもしなくて、ほぼ外見を捨てた女であっても彼は私に好意をもち続けてくれたのだった。なので今更綺麗にしたってあまり意味はないかもしれない。だけどまあ目にする機会が増えた分、ちょっとでもガッカリさせたくないなんて、殊勝な心が出てきたことに驚いた。
この私が人の視線を(女性として)気にしている!!それは結構な衝撃で、自分でもあまりにも久しぶりの感覚に丁度いい分量が判らずに、最初の頃は化粧品をそのままごっそり持ち歩いていたほどだ。・・・忘れるものなのね、感覚って。スマートにOLをしていたのが遥か昔に感じるほどだった。
持ち歩くようになったら不安なのよね。口紅一本で足りるのか、とか。マスカラも必要かしら、とか。
で、実際に化粧を直すようにしてみたら、一日の間に鏡を見る機会がとても増えた。その時その時でファンデが肌に馴染んでいていい光を放ち、アイラインが崩れていないと自分の機嫌がよくなることも発見した。
そうか、とコンパクトを閉めながら私は思ったものだ。
世の中の女性って、男や周囲の人の為でなく、自分の為に化粧をするんだ、って。そうしていれば自分が心地よくいられるから、綺麗に飾るんだって。
おおー、だった。亀山睦、30歳になって新発見であります。