カメカミ幸福論
まだ、美紀ちゃん以外には小暮と私が付き合っていることはバレていないらしい(美紀ちゃん情報だけど)。小暮課長にはどうやら彼女が出来たらしいって派遣社員さんとか独身組みが騒いでましたけど、相手が誰かは判らないようでしたって言ってたもん。よしよし、私は一人で頷く。バラす必要、全く無し。どうせ会社では相変わらずすれ違う課同士なのだ、気にせずにやりたい。
記憶が曖昧なのでハッキリと覚えていないけれど、私は6月頃から何故か仕事が楽しくなり始めて、今更の開花をした。使えないお局と呼ばれていた3年間がすっかり過去のものとなったのかは知らないが、かなりあたりが柔らかくなった課長から、後輩の指導を命じられてしまったのだ。
「亀山さーん、頼めるかな~?」
って。ちなみに、その時総務課は何となく凍ったような空気が流れた。皆が勇気ある、もしくはちょっとおバカな課長をガン見していた。課長も汗をかいていたように思う。
だけど、私は立ち上がって頷いたのだ。
「判りました」
って。
今までは瞬殺してスルーだったそんなことも、張り切ってはいないけど、とにかく私は参加するようにしているのだ。
一つには、美紀ちゃんが喜ぶから。
一つには、そうしていると心が安定するから、というのがわかったのだった。
何も考えずに済むのだ。新人の事務員に仕事を教えている時や、後輩に指導している時、私の頭の中は空っぽになる。ずっとぼんやりとした考えがしめていたのが嘘のように、ハッキリと道が見えるような感覚になれるのだった。