カメカミ幸福論
今晩は久しぶりに会って、彼の5日間の出張話をいつもの居酒屋で聞いていたのだった。相変わらず退屈しない男で、私はまたたくさん笑わせてもらった。
彼に会いたくて会いたくてって激しい感情はないにせよ、久しぶりに顔を見たときはふわふわと喜びがこみ上げてくるのが判った。確かに、私は小暮を好きになったようだった。
お腹は一杯で程よくお酒も飲んでいて、二人でぶらぶら帰る途中だったのだ。
いつもの公園に差し掛かったとき、私はふと思いついてその質問をする。どうにも小暮との最初のきっかけを思い出そうとすると、記憶がぼんやりと霞んでいるのだ。
だけど世界中でその記憶を共有しているはずの、唯一の人物が目の前にいるのだ。聞くのが自然な流れだと思う。
知りたかった。
私の言葉を聞いて、小暮はひゅっと一瞬で情けない顔になった。眉毛を寄せて見下ろして、マジで?と聞く。
「ん?」
「カメ、忘れちゃったの?俺がここでお前に告ったことも?」
人差し指を地面にむけて、彼はここ、を強調する。私はちょっと慌てて両手を振った。
「いやいや、それは覚えてるわよ!まだ1ヶ月ほど前のことじゃないの」
「あ、良かった。ショック受けるとこだった~」
胸を撫で下ろして小暮が苦笑する。まあ、仕方ないかもなって。あの時はお前、何だか様子がおかしくて、口をあけたり閉じたりしてたし、なんか全然話も聞いてなかったみたいだったし。小鼻をこすりながらそういう小暮に、私はちょっと首を傾げる。