カメカミ幸福論
うん?と小暮が私を見た。それから、きゅっと口の端をあげて企んだような笑顔を作る。
「時間?勿論、ある。コーヒーはいらないから、カメを抱かせて」
「ぶっ・・・」
思わず噴出して苦しむ私を見てケラケラと笑い、小暮が歩くスピードを速める。
「ほら、早く帰ろう。滅多にない逢瀬の時間なんだからな~」
「滅多にないって・・・まだ付き合いだして間もないでしょ」
「知り合ってからが長いからな。俺の心情的には織姫と彦星なみだぜ」
「は?」
デートが一年に一度でいいなら、淡白な私には楽かしら?そんなことを意地悪く考えて、私はまた変な感覚に襲われる。
・・・うう、また、あれだ。何か忘れてる感覚・・・。織姫と彦星が悪かったの?って何、織姫と彦星といえば・・・七夕?・・・それの何がひっかかった?・・・星?
星が、一体どうし――――――――――――
「カメ!」
「ちょっと~!そんなに急がなくても部屋は別に逃げないわよ!」
ぐいぐいと引っ張られる手が痛くて抗議すると、小暮は振り返ってキッパリと言った。
「タイミングを逃すとお前はちょっと面倒になるだろうが!」
・・・悔しいことに、言い返せないわ。
手をひっぱる小暮に引かれて、私は仕方なくスピードを速める。結局その変なざわざわする胸の感覚は、部屋について問答無用で小暮が私を抱くまで、頑固に続いていたのだった。