カメカミ幸福論

・神の降臨、再び



 夏が終わっていく。


 空はどんどん高くなり、うろこ雲が現れる。私はいつものように自転車で通勤しながら、公園の中では空を仰ぎ見ることがよくあった。

 ああ、高いな――――――・・・。そう思うだけなんだけど、何か、この公園にいる時は視界が上へと上がってしまうのだ。

 汗もかかなくなってお日様の光がなんとなしに緩くなったその日の夜、私はちょっとした残業をしてしまった。

 仕事に精を出さなくなって以来、初めての残業だった。

 後輩のやり終わらない仕事を監視していた私が、終われそうにないので残業して補佐します、と課長に許可を取りに行ったときのあの驚愕の表情は、我が社の今年最大の見ものだったらしい(美紀ちゃんはそう断言した)。

「え!?ざ、残業・・・?亀山さんが?残るの?」

「はい」

「亀山さんが?残業って、あの、残って仕事するの?」

「いけませんか」

「いや、いけなくは・・・」

 課長はそう言ってから、池の中の鯉みたいに口をパクパクさせていた。私はそれをイライラしてみながら、手の平で泣きそうになっている後輩を指してつっけどんに言ったのだ。

「じゃあ、放置しましょうか?」

 って。

 そこで課長はようやくハッと気がついたらしい。新人の面倒をみろと言ったのは自分だと。私がへますれば、それは真っ直ぐに人選ミスとして自分に跳ね返ってくるのだと。課長はぶんぶんと音がするほど首を縦に振って了解を示した。


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