カメカミ幸福論
私は短期間ではあるけれど、あんなに目立つ、しかも迷惑な男(訂正、神だ)を忘れていた。
それは、私が小暮とごにょごにょがあったから、感情が小暮に向いてしまったから、らしい。他の誰か、自分以外の誰かに意識が完全に向いた時、記憶が消えるようになっているんだって。なんだそりゃ、だけど、ダンはつまらなさそうにそう言ってた。
『だからムツミは俺のことを忘れた。記憶から俺だけを自動的に消したから、曖昧な記憶になってたんだ』
私は自分の部屋で、夏布団に包まって闇の中。
隣の部屋のテーブルの上には缶ビールを飲み散らかした後。だって、ショックをやわらげたかったんだもん。
だけど静かな闇の中とアルコールの力をもってしても眠れなかったらしい。きっとそれ以上にダンの再来が衝撃的だったのだろう。
目をつむったままで公園でのことを思い出す。
ヤツは、返事を聞こう、と言った後で、私が呆然としていた為にかなりの間が空いてから真面目な顔をして言った。
『規則違反の罪は償った。だけど、俺はお前を上へ連れて行って、人間の幸福感について調べたいこともある。約束しよう、ムツミは天上世界では必ず幸せになれる。さあ、どうする~?』
折角真面目な顔してるのに、残念なチャラい言い方だった。
私は怒りも笑いも忘れてしばし呆気に取られていた。
だって、また誘われるとは思ってなかったのだ。