カメカミ幸福論


「亀山さん、サンドイッチどうですか?」

 ようやくいつもの朗らかで優しい美紀ちゃんに戻って、彼女が言う。

 今日の運動会は食べ物は自己責任で持参だったのだ。来年からは業者に発注するって話になったらしいけど、今年はそれが間に合わなかった。それで社員はめいめい食べ物を持参した。

 上司クラスは結構な値段のするケータリングを皆で分け合って、まるで花見のような状態になってるし、中堅以下は男性社員を筆頭にノンアルコールを持ち込んで盛り上がっている。

 私は美紀ちゃんの手作りらしい素敵なランチボックスを覗き込んで、笑って言った。

「ありがと。でもこの後大玉ころがし出なきゃならないらしいから、今はいいわ。大玉がお腹にアタックしてリバースになったら申し訳ないから」

 話の内容が宜しくなかったらしい。美紀ちゃんが顔を顰める。

「・・・じゃあ、あとにします。亀山さん大玉ころがしなんですね~」

 私は嫌そうなのがハッキリ判るほどにうんざりした顔をした。

「だって全員何かには参加なんでしょ?」

 最初はそんなもん休んでやる、と思ったのだ。全員参加と聞いていたけど、何が楽しくて休日に会社行事に参加しなきゃならんのよ、そう思って。

 だけど滅多にないデートで、小暮が明るい笑顔で言ったのだ。

 カメにいいとこ見せるように、俺頑張るぜーって。そのために、夜に腹筋とかしてるんだよ、って。照れながらそう言って、不覚にも私はそれにキュンとしてしまったのだった。

 ・・・・・・・・・キュン、よ、キュン。・・・この私が。オー・マイ・ガー!


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