カメカミ幸福論


 口元に笑みが浮かんだ。

「・・・私は、ここで生きるわ。人間だもの、地上を這うの。それで、出来るだけ楽しくいられるように努力してみる」

 ダンが、にっこりと笑った。

 それから手を優雅にまわし、爽やかな風を周囲に巻き起こす。いい匂いのするその上昇気流に乗って、ダンの体はそのままスッと空へ上っていく。

 彼の髪の毛がパラパラと舞った。

 キラキラが、小さくなる。

 ゆっくりと旋回して、少しだけ浮かんでいる雲を揺らして。


 ダンは―――――――――――天上世界へ、戻って行った。



 私は芝生の上に寝転びなおして、それをじっと見ていた。

 ねえ、あんた、本当に神だったのね。そう心の中で呟く。

 こんなに頑固で意固地な無気力女をひと夏で変えるなんて、なかなかの影響力じゃあない?


 ふふふ、と笑いが漏れる。

 背中には温かい芝生の感触。高い空や広がる林には、会社の運動会で盛り上がる社員の声が響いている。


 私はもう一度、帽子をずらして瞼を閉じた―――――――――――







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