カメカミ幸福論


 ついでに言うと、小暮も昇進した。営業2課から1課の課長職への異動で、本人はかなり燃えている状態だ。俺は最短で部長になる、が最近の口癖。それを私が適当に聞くので苦情を言っている。

 冬には実家に小暮がついてきた。念のために言うと、私はその提案を受けてから長い間拒否しまくったのだった。だけどヤツは諦めなかった。とうとう実家へ帰る前日に私のアパートへ突撃し、私がうんというまで得意の営業トークを披露したのだった。

 両親は喜んで、涙さえ浮かべていた。大げさだわ、全く。兄貴はちらりと小暮を見て、それから私にこっそりと言う。

 これで俺の自由は確約だな。よくやった、妹よ。

 パンチをお見舞いして礼に替えた私だ。


 寒い冬の中を、何と恋人と一緒に過ごす。

 一人で部屋でごろごろするのも素敵だけれど、これはこれで、温かいし良いものなのかも、そう思って私はよく笑っていた。

 目元の皺だって、笑い皺なら素敵なのかも、って。

 色んなことを見えないことにして、色んなことを諦めて遠ざけてきた。

 それは、自分を守るためだったのだと今は判る。

 だけどよく考えたら昔から、「攻撃は最大の防御」って言うわよね、って気がついたのだ。

 いつでもガンガンにせめていたら疲れてしまう。だから、ほどほどにね。だけど攻めの姿勢を忘れないこと。その方が、満足度も上がるはず。

 ノートの最後にはこう書いている。

「何かに傷付いたら、それを上回る喜びを発見すべし」

 そしてノートの一番前には、サインペンでこう書いた。



 『カメカミ幸福論』――――――ダンとムツミの攻防戦。





「カメカミ幸福論」終わり。
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