カメカミ幸福論
え、嘘嘘!そんな私は正体不明の男と同居をしなけりゃならないの!?
ダンは嫌そうな顔をして私のお城をゆっくりと見回し、それからため息までついて頷いた。
その、仕方ねーって態度に血管が切れるかと思った。だけど、もう今晩は声を失いたくない私はヤツを隣の4.5畳へ突っ込んで襖を閉めてやった。「2時間一人にして!」と叫んで。
ヤツは2時間どころか、それ以後は姿を現さなかった。実はいたのか、それは知らないが、とにかく表面上は私はいつものように一人の時間を過ごせたのだ。・・・朝までは。
起きると同時にベッドの足元にヤツが立っていて、泣きそうになった。
朝がきて嬉しいと思った記憶は特にないが、今朝ほど「畜生!」と夜明けを恨んだこともなかったな。
・・・いるじゃん、こいつ。そう思って。
とにかく、朝食をとって(ヤツは食べなかった)出勤準備をした。観察ってどんな?と思っていたけれど、特に凝視するとかメモをとるとかもなく、ヤツはただ近くにいただけだった。
振り返るとそこにはやたらと美形の男がいる、そんな感じ。
それって素晴らしいことだと思えればいいのだけれど、私にはイラつくポイントでしかなかった。電卓を叩くのに邪魔で爪は伸ばしてなかったけど、武器になるから伸ばそうか、とこっそり考える。
あのキレーな顔に爪を付きたててやりたい。ぐぐーっと。
で、出勤中の今、自転車を懸命に漕ぐ私の隣をヤツは空中移動中。
ヤツは何と飛べるらしい。つか、そうよね、昨日だって飛んでいたっけな。だけど私の30年の人生経験では、チャリに乗る私の後ろを飛ぶヤツについてこられたことはないのだ。
故に朝から不機嫌だった。