カメカミ幸福論
「あのさあ、さすがに外で飛んでたら目立つんじゃないの?そんな派手な外見してるんだからさ」
ぐんぐん自転車のペダルを漕ぎながらそう言うと、隣をキラキラと無駄に光を撒き散らしながら飛んでいたダンがあははと笑う。
「大丈夫~。パートナー以外には俺の姿は見えない。だから、俺の姿が見えている時点でムツミがパートナーってことなんだ」
・・・そうですか。ああ、今すぐ見えなくなりたい、私。
「勿論、他の人間には俺の声も聞こえない。ただしムツミが話している声は周囲に聞こえるぞ。そこは気をつけたほうがいいかな~」
「・・・あっそ」
じゃあ無視してやるよ!そう決意した。
・・・した、けど、実際にはこれが、難しかったのだ。
ヤツは確かに手は出さなかった。ただ斜め後ろや天井近くをふわふわと浮かび、私を文字通り観察しているようだった。
だけど、邪魔しないと言ったのは嘘だった。
とにかくよく話しかけやがるのだ。他の人には聞こえないらしいから、普通の声で、いきなり。
「ムツミ、それは何だ?」
「ムツミ、今の男は何と言ったんだ?」
「ムツミ、何をしているんだ?」
それだけでも腹立たしいのに、朝一番の会議の後で課長がバタバタと仕事が増えるぞ宣言をしたので、自分で処理するつもりだった書類を大量に私へ回した美紀ちゃんが、「お願いですから今日だけは頑張って下さい!」と言ったとき、背後からダンがこう言いやがったのだ。