カメカミ幸福論


「あ、妹に紹介してやって。俺は間に合ってるから」

「え!?いやいや、叔父さん、先に兄貴に宜しく。やっぱり順番は守らなくちゃねえ!」

「ほら、女はリミットがあるとかで」

「いや、男は会社での体面もあるだろうし」

 がるるるるる。机上では無表情で睨みあい、机下では耳栓の激しい取り合いをしていた。

 叔父さんは兄妹が会話に乗ってきたので喜んで、兄貴に向き直る。

「じゃあ陽介君、うちの会社の女の子で―――――」

 兄貴が私から視線を外して体を戻し、パッと片手を顔の前に出した。

「結構。大変な女が一人、周囲にいるんだ。それで手一杯だから」

 へえ。私がその言葉を頭の中で転がしていると、次はおばさんが私に言う。

「なら睦ちゃん―――――」

「いえいえ!私も大変な男が一人、周囲にいるので。それで手一杯です!」

 つか、それは今ふわふわと叔父さんの後ろを浮遊してるよ。

 ダンと目が会ったので、あっかんべーをしたい気持ちを抑えるのに苦労した。

 従姉妹が面白そうに私たちを見て、自分の子供の世話を焼きに席を立つ。心底残念そうな父母その他を無視して、私は兄貴にボソッと聞いた。


< 55 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop