カメカミ幸福論
「ちょっとお兄ちゃん、彼女出来たの?大変な女って誰」
とたんに無表情の兄がしかめっ面になった。
「あんなのが彼女とか、勘弁してくれ。今の会社の同期なんだが、何と言うか・・・台風みたいな女なんだ」
重いため息。そういえば兄貴は数年前に会社を変えていたな、と思い出した。そこでの同僚に大変な女がいるらしいと判って、ちょっと兄貴に同情した。そうか、それは可哀相かもね、そう思って。
「別にその人のことが好きだとか、そんなんではないってこと?」
「有り得ない。そんな恐ろしいこと、考えるのも嫌だぜ」
・・・そこまで?私は若干興味を引かれた。この淡々として自分の世界にいつでも浸っている兄貴を、ここまで困らせるというか嫌がらせる女性というのは、一体どんな人なのだろうか。
話を終わらせたかったのか、今度は兄貴が私を見下ろして口を開いた。
「お前は?大変な男って何だ?勘違い男とか、DV男とか?」
それは、大変というのでなくて悲惨というのではないだろうか?私は眉間に皺を寄せて、兄貴の想像を一瞬で払いのける。
「・・・・うーん。そんな、別に変態ではないのよ。まあ、一種のパートナーなの。仕方なく組んでるけど、とにかくハリケーンみたいな男でさ」
派手で破壊力が凄まじい。
だけど兄貴には私の苦労がわかったようだった。生まれて初めて、同情の言葉を貰ったのだ。
「お前も大変だな」
「うん・・・・兄貴もね」
歴史的瞬間だったことは間違いない。亀山兄妹が分かり合えた初めての時だったのだから。