カメカミ幸福論


 私はムカついてイライラと爪を噛む。

 座席にだらりともたれかかったままで睨みつける私に、ダンが前から声を飛ばした。

「お前には、色気がない」

 カッチーン!

「ほっとけっつーの!!」

 何なのよ~!思わず椅子から背中を離して噛み付きかける私から目を離さず、ダンは考え込むような顔のまま言った。

「異性が長らく側におらず、恋愛感情を抱く相手もいない。だからだろうな~・・・。うーん」

「だから、私はそれで満足してるのよ。あんたに関係ないでしょ、もう~!」

「そういうわけにはいかない」

 今や私は立ち上がり、仁王立ちになってダンを見下ろす。

「何故なのか五文字以内で述べよ!」

「寂しそうだからだ」

 ・・・は?

 私はダンをじっとみた。

 ―――――――寂しそう、だからだ。・・・って五文字じゃないじゃん。

 言葉をなくしたままで私は神を見ている。電車の揺れはヤツには関係ないらしく、微動だにせずにダンは話す。

「ムツミは、寂しいのにマヒしている。慣れすぎていてそれが当たり前になり、求めていることに気がついていない」

 ・・・断言しちゃってるよ。おいおい。私は呆気に取られていたけれど、そこでちょっと口を挟んでみた。

「いや、寂しいとか思ってないよ、私」

 ダンがふ、っと笑った。


< 61 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop