カメカミ幸福論
「ムツミは一人の時、たまにぼーっとしている。その間に手でいろんなところを触っているのに気付いているか?唇、髪、足、鼻、自分の体の色んな場所を無意識に撫でている。生物が自分の一部を触るときは寂しいとか不安があるなどの時だと俺は習った」
「・・・」
え、ほんと?私は思い出そうと努力する。だけど無意識だってダンも言ってたじゃん。それがクセになってるなら私は勿論気がついていない。でも・・・寂しい?
「異性に興味がなく恋愛をしていなくとも他に邁進しているものがあれば、充実度は確かに違うだろう。だけど、ムツミは仕事にも欲をなくしている。友人とも遊ばない。異性の目を気にしない。それではお前は一体何の為に生きているんだ?」
――――――あ?
私はまた怒りが湧いてきたのを感じた。
そのタイミングで電車が駅に止まる。ドアがあいて、夏の夜の空気が車両の中に忍び込む。だけど誰の乗り降りもなくて、そのままでドアは閉まった。
相変わらず、終電のこの車両には私とダンだけ。
動き出した電車の振動に両足を踏ん張って耐え、私は目の前の美形に意識を集中させた。
「私が何のために生きようが、あんたには、関係ないわ」
一々区切って言ってやった。このお節介神め。何だって私は今こいつに説教されてるわけ?折角上機嫌だったってのに―――――――――
ダンは私の突き刺しそうな目線にもめげずにじっと見返してくる。