カメカミ幸福論
あの、実家に帰った日。
夜の電車でダンに抱きしめられ、そのついでに号泣してしまった私。帰宅後にヤツを罵って、私の人生に口を出すなと約束させた。それからのダンは口数が明らかに減ったのだ。
今まではわけも判らずに珍しさもあって色々口出ししていたのが、これが本来の「観察」なんだな、という状態に戻ったというか。
邪魔をせず、口も出さず、背後霊・・・いや、まあ一応神だし守護霊でもいいんだけど、とにかくそんな感じで存在感なく私についてまわるようになったのだ。
家に戻るとさっさと姿を消してしまうから、私は今まで通りの一人暮らしに戻った気分だった。そして会社では、端っこの方で私を観察しているのでそんなに気にならない。
一人で寝転んで過ごすのではなく、誰かと大声で怒鳴りあうことを久しぶりにしていた私は、それにホッとすると同時に若干寂しくもあった。
だけどそんなことを思う自分を頭の中で拳骨かます。これで、いいのよって。
これが、元の生活でしょって。
ただ、ヤツを無視するために身を入れだした仕事に関しては、美紀ちゃんや周囲の機嫌がいいのもあってそのままのペースだった。
この会社での将来に期待がないのは同じだ。だけど、そろそろやる気がない状態にも飽きてきたのかも、そんなことを思っていた。ならば、まともに給料分は働こう、バリバリではなくとも、ほどほどには働こうって。
自分でそう思えるようになったことで時間の流れを痛感する。私がダラダラしている間にも確実に時間は流れていっていたんだって―――――――――