カメカミ幸福論
「たまには社食もいいですね~、毎日お弁当だと飽きちゃうもの」
美紀ちゃんがそう言って笑う。私も隣でうんうんと頷いていた。私は弁当など滅多に作らないけれど、コンビニのパンよりも社食の方が安いし美味しいのは確かだわって。
社内中の人間が溢れている社食には、美紀ちゃんに誘われない限り行かなかった。他人には見えないと判っていても、やはり後ろで浮かぶキラキラオーラ全開の美男子が気になるからだ。・・・こんなに光ってんのに、皆には見えないのか!不思議だ!といつでもそう思ってしまう。存在には慣れたけど、輝きには慣れない。
「給湯室よりますか?コーヒー飲みましょうよ、亀山さん」
美紀ちゃんがニコニコして言うのに、私は頷く。
そして給湯室へ向かおうと角を曲がったところから、近くの喫煙室の会話が聞こえてきたのだった。
「悪いな、倉井。今回は全部任せて。でも助かった」
この声は、小暮か?
そう思ったのは私だけじゃなかったようで、美紀ちゃんがあら?という顔をする。
だからその時歩く速度を遅めたのは、私の一種の親切だったのだ。美紀ちゃんが、小暮のことを少なからず思っているのだろうって考えていたから。
ところがそれはがっつり裏目に出た。
聞こえてきた話題に私が入っていたからだった。男4人がいるらしい喫煙コーナー、その内3人が私の同期だったのは偶然だと思う。
小暮が呼んだ、倉井という、これまた私の同期である技術部の男が言った。
「いいって。いつも小暮に幹事やってもらってるし、悪いと思ってたんだ。課長になってから多忙なのは判ってたし。とにかく今晩6時半な、遅れても来てくれたらそれでいいよ」