カメカミ幸福論


 何かを決心した顔で、美紀ちゃんが喫煙コーナーを睨みつける。何せ、うちの総務を背負って立つこの綺麗な事務員は、正義感溢れる張り切り屋でもあるのだ。衝立の向こう側に喧嘩を売りにいくことなど何の躊躇もしないだろう。

 私は焦って彼女の腕を引っ張った。

「ほら、いきましょ」

 ところが小さく囁いたその声は、小暮のぐっと低くなった声でかき消されてしまった。

「お前、何言ってんの?」

 真っ赤になって憤慨している美紀ちゃんの体を右手で止めながら、今度はそっちを振り返った。・・・次はあいつが怒ってるよ~・・・。おーい、小暮、ちょっと落ち着け~。心の中でそう念じてみた。

 だけど当たり前というか何というか、小暮にはそのテレパシーは通じてなかったらしい。

 喫煙コーナーの中は今ではハッキリと不穏な空気が漂って、小暮が倉井に近寄ったようだった。

「最低だな、わざと一人だけ声かけないとか、お前マジでやったの?飲み会は同期でやるんだろ、来れないなら仕方ねーけど呼ばないとか何だよそれ!それに亀山をそこまでバカに出来るのか、お前?お前だってまだ役職ついてねーだろうが!独身なのも、お前も俺も含めて同期ではまだ6人もいるだろ!」

 倉井はむっとしたようだった。どうやら笑いが取れると思っていたのに、取れないどころか責められているのに腹が立ったようで、小暮に言い返す。

「俺は仕事のやる気がないくせにダラダラ居座るような女が嫌いなんだよ!」

 チッと美紀ちゃんが舌打をした。私は必死で彼女の腕を掴みながら、エレベーターのボタンを連打した。


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