カメカミ幸福論
『どこにいても邪魔なんだから』
いつか派遣の美人に言われた言葉が頭の中を回る。
腹が立つ、とか、情けなくて悔しい、みたいなことはなかった。
だって私は自分が会社の役に立っていないことを知っている。
判ってて、今までダラダラしていた。
そりゃ真剣に働いている人にはムカつかれて当然だろうって思っていた。
だから周囲の声は聞こえないようにしてきたし、それを気にするようなプライドは自分で崩してきたのだ。
美紀ちゃんと別れてトイレに入る私に、天井近くからダンが声をかけた。
「・・・ムツミ、こんな時には泣かないのか?」
振り返る。ダンは、透明な視線で私を見ていた。
「泣かないわよこんなことで」
「どうして?悲しくないのか?」
「特に悲しくはないわ。まあ当たり前だと思えるから」
静かに個室のドアを閉める。
泣く?いいえ、そんな必要はない。こんなことで一々泣いてたら、独身窓際族なんて3年も出来ないのよ。それに悲しくて泣くよりも、私にはもっと驚いたことがあったのだから。
誰かが、私の陰口を聞いて怒ってくれるとは思わなかった。
驚いたのだ。
小暮や、沢井や、美紀ちゃん・・・私の為に、怒ってくれる人がいるってことに。
存在を、受け入れてくれている人達もまだいるってことに。