カメカミ幸福論
午後の仕事の間も、美紀ちゃんは怒っていた。
私は電卓を叩く手を止めて、周囲の人間がチラチラと美紀ちゃんを盗み見るのを見ていた。
私が倉井に対して怒らなかったので、彼女は怒りを発散しようがないのだろうと判っていた。だけど、たまたま廊下で立ち聞きしてしまった私を省いた飲み会の会話で、一体何をどう言えばよかったのだろうか?
ちょっと!何で私をハブるのよ!?とでも怒鳴ればよかったのかしら。・・・でもどうしてかって説明してたしな。その気持ちは頷けたし。確かに、今までの同期の飲み会でも倉井から私に話しかけたことなどなかった。きっとヤツはずっと私にイライラしていたのだろう。それで幹事になった今回、形に表したのだろうし。
ふむ、仕方ない。
私はコピー機に行くついでに美紀ちゃんの後ろを通りかかり、彼女の机にメモを投げ入れる。
美紀ちゃんは驚いた顔をして一瞬私を見てから、そのメモに視線を走らせた。
中身はこれ。『今晩時間あれば、頭に来たぜ飲みに付き合ってくれない?』。それで彼女のストレスを発散させよう、でなくちゃ折角最近は機嫌よく過ごしてくれていた頼りになる後輩が可哀想だし、事務所の空気も冷え切ったままだ。そう思って誘うことにしたのだった。
私からプライベートで誘ったことなどない。普段自分からはランチの誘いもしない先輩が飲みに誘ったってことで、彼女の怒りがちょっとでも静まればいい、そう思っていた。
コピー機から戻るとき、くるりと振り返った美紀ちゃんが、真顔で親指を突き立てるのを見た。
『オッケーです!!』
そういう声まで聞こえてきそうなピンと立った親指につい笑ってしまう。