カメカミ幸福論
するとその整った顔をぐんと私の顔間近に寄せて、ダンが低めた声で言った。
「―――――――無視を続けるならキスするぞ~」
・・・あ?
私は手を止めて、目の前の男(注:分類上、神)を凝視した。これも端からみたらただ前方をじーっと見詰めているだけの変な女になってるに違いないけれども、今はそれに構ってられなかった。
以前私が、ちょっと「エ」と「チ」を弾んでいう単語を連発したら、恥かしがってゴロゴロと床を転がった物体が、今、何て言った?
ダンはその美しい瞳を細めてゆっくりと笑う。キラキラと細かい光の粒子をばら撒いて、それは素晴らしく色気のある微笑みだった。整った口元が近づいてくる。その綺麗な唇が少しだけ開かれた状態で、すぐそこに。
私はそれを見て息も絶え絶えになり、クラクラとよろめい―――――――――――たりは、しなかった。
代わりに、思いっきり不機嫌な顔をして目の前のパソコンをぶっ叩いた。
バコン!と凄い音がして、事務所内のアチコチから視線が突き刺さる。奥から課長が、亀山さん?と聞くのに、私は真顔で会釈をして謝罪をする。
「すみません、お騒がせしまして。ちょっとノイズが、パソコンに」
え?と怪訝な顔をする課長以下数名の事務員をスルーして、私は立ち上がる。
「資料室行ってきます。他に持ってくるものある方いますか?」
全員が目を丸くしたままで首を振った。なので私はそのままでスタスタと部屋を出る。ああ、視線が背中に超痛い・・・。