カメカミ幸福論
『急で悪い。今晩同期会があるんだけど参加出来る?連絡漏れで、ギリギリになって申し訳ない』
私と美紀ちゃんが実は喫煙コーナーから漏れ聞こえる声を聞いていたとは、あそこの誰も気がつかなかったらしい。
で、当然私は断りの返信をいれたのだ。『悪いね、先約があるの』って。皆で楽しんできて~ってまで入れた。
そりゃ私を嫌っていると今やハッキリ判った男が幹事をする飲み会に出るよりは、普段から一緒の部屋で働いている頼りになる後輩と飲むほうが楽しいに決まっている。
私は急に態度をコロッと変えた背後霊(つまり、ダンなんだけど)から受けるストレスをどこかで発散させたかったのだ。
私がそのメールを打っている間、ダンは唾を飛ばして(いたかは知らないけれど)『行くべきだ、ムツミ~!行けばあの小暮という男もいるのだろう!?あんたを庇ってくれる人は大切にしろよ~!』と叫んでいた。
無視だ無視。ヤツは、どうやら小暮こそが私が幸せを掴むためのキーパーソンになると思い込んだらしかった。
で、予定通り美紀ちゃんと安いけれど料理もそこそこ美味しい居酒屋に。
それを知った美紀ちゃんは当然ぶーぶー言ってきたけれど、私がとっておきの切り札である何故仕事をしなくなったのか、の理由を話し出すと口を閉じて身を乗り出して聞いていた。
誰にも話したことがなかったから、これなら興味が沸くだろうと思ったのは正解だった。
とはいってもそんなに規模も大きくない会社内のこと、ある程度の噂や推測はやはりあるはずだ。それを証明するかのように、元気をなくした美紀ちゃんが前でぼそりと呟いた。
「・・・本当だったんだ、あの話は」
「そんなわけで、な~んか力が抜けちゃってねえ~・・・。もういいかな、と思ったの。それで迷惑をかけまくってるうちの事務所のメンバーには申し訳ないんだけどね・・・。もう仕事は頑張れないって思ったのよ」