エタニティ
「でも、付き合ってる人位いるんでしょ?」

……旧姓(多分)林さん、随分不躾なことを言う人だわ。

何となく目を上げると、同じ輪にいる他の人達も、私達の会話を聞いていて、興味津々の顔で、話しの行く末を見守っている。

この空気が面倒臭いなんて思った時、他の輪にいた数人の男性軍が、ジョッキ片手に此方の席へ流れて来た。


「おっ。ここは人妻率の高い、いい匂いの席だ~」

笑いながらやって来たのは、学級委員長の小嶋君。

そのとぼけた一言に、さっきまでの変な空気は消えて、少し甲高い女子(といっても30オーバー)特有の笑いが起きる。

隣りに座っていた彼女も、これ以上何か言う気は失せたらしく、自分達の間に誰か座れるよう、かなり空けて席をずらした。

私達の隣りにはスーツ姿の様になった、元男の子が座る。

「よう、久しぶり」

聞き覚えのある少しハスキーな声に、私は振り向いた。

「……葉山君」

「まだ、『ナミキミチ』のまま?」

昔の面影を残したままの葉山君が微笑むから、私の胸の中は少しだけ震えたけれど。

でも彼が手にしているのは、高校生の頃いつも飲んでいたコーラではなく、生ビールのジョッキだ。

嫌でも、大人になった歳月を思い出す。

「すみませんね、苗字が変わってなくて」

私は笑いながら言葉を返した。

「でも……見違えた。ミチ、綺麗になったね」

サラッとそんな褒め言葉を繰り出す、葉山君に驚いた。
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