素顔のキスは残業後に
prologue 
『ワンピースを好む女性は、愛されたい願望がある』

長いキスの後で、ふとそんなことを思い出した。

いまのどこで、聞いたんだっけ?

誰かとの会話だったのか、最近読んだ雑誌の記事なのか。
なぜだか無性に気になった。でもどうしても思い出せない。


「友花(トモカ)。どうかした?」

「うん。ちょっと…」

「ちょっと?」

「気が変わった――って言ったら、どうする?」

思い出せないなら、きっと大事なことじゃないはず。

心に言い聞かせて意地悪な言葉を返すと私を見下ろす瞳が困ったように細まり、彼との距離がゆっくり縮まる。

「それは、俺が無理」

二人しかいない室内に掠れた声が漏れると、今日一番の優しいキスから唇を柔らかく噛まれた。

< 1 / 452 >

この作品をシェア

pagetop