素顔のキスは残業後に
穏やかな声にホッと胸を撫で下ろすと「桜井」と、彼に柔らかく名前を呼ばれて振り返った。


「そういうのはちゃんと報告しておけよ。部下の活躍は部長だって鼻が高いんだから」


とても穏やかな笑みを向けられて、嬉しさよりも笑いが込み上げそうになる。
彼の意地悪な素顔を知っている私には分かる。


『そんな嬉しすぎる報告。してないわけないよな?』


そんな想いを含ませた彼の言葉に、部長のゴルフ焼けした浅黒い顔が耳まで赤くなっていく。

到着を告げるチンッという短い音が響くと、部長は足早にエレベーターを降りてしまった。
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