素顔のキスは残業後に
思いがけず優しい色を含んだ瞳に吸い寄せられて、声にならない。


夜風で揺れた髪が頬に触れる。

胸が締めつけられて身動きが取れないでいると、彼が頬にかかった髪をそっと耳にかけてくれた。


指先が頬を掠めるだけで息が苦しい。


今日何度も押し寄せたこの痛みは――……


答えを弾き出そうとすると頭が痺れ始める。


見つめられる視線から逃れるように顔を背けると左手を強く引かれて、

息を呑む間もなく温かい腕に包み込まれていた。



背中に回された腕に力が加わると、息苦しいほど胸が締めつけられる。


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