素顔のキスは残業後に
『B-Lover』のマスコミ向けのプレリリース原稿を抱えて宣伝部を訪ねると、
鋭く鳴り響いた怒声にビクッと肩が震えた。
「――ここにきて無理です。そんなのっ」
そんな感情を抑え切れない声は初めて聞くもの。
それはきっと柏原さんを遠目に見る五月さんや、宣伝部の他の社員も同じなんだろう。
その場にいるすべての人が作業の手を止めて、彼と対峙する彼女を見つめていた。
縦型のブラインドを背にして座っている彼女は、表情を崩すことなく冷淡な瞳を彼に向ける。