素顔のキスは残業後に
だって、この容姿だ。相手に困ってるとかは絶対なさそうだもんね。
でも、まいったなぁ。財布にいくら入ってたかなぁ?

給料日前の財布の中身を心配していると車が会社の駐車場に停まった。

今日みたいな台風でなくても、商品開発部やシステム管理などの部署は泊りの社員もいたりするから、24時間体制の警備室から室内に入ることができる。

警備室で借りた各フロアーにあるセキュリティー解除用のカードを使い、自分のデスクまで辿り着く。
一度息を呑んでから一番上の引出しを開くと、二つ折りの赤い財布が目に入る。

その中身を確認してホッと胸を撫で下ろすと、何かの気配を背中に感じた。

「財布あったんだ。オメデトウ」

まったく心がこもっていない棒台詞に振り返る。
車で待っていると思ったのに、柏原 柊司は総務部のフロアーまでついて来てくれていた。

とっくに帰っていたかと思っていた彼の姿に驚くのと同時に、もしかしてと思う。

もし財布が見つからなかったら、一人で探さないといけなかったし。
やっぱり意地悪そうに見えて、いい人?

それともうひとつ気になっていたこともあって、エレベーターを待ちながら彼に聞いてみた。

「ありがとうございます。それと、あのっ。どうして私の名前…仕事で関わったことありましたっけ?」

彼と違って私は社内で目立つようなポジションではない。
そう聞いてはみたけれど、仕事で関わったこともないはずだ。

だから話したこともないのに……。

私の問いかけに足元に落ちていた彼の視線がスッと斜めに上がる。
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