素顔のキスは残業後に
どこか引力のある瞳が私をじっと見つめて、彼はさも当然のような口調で答えた。

「別に。興味あるから知ってた。それだけ」

真顔でそう返されてしまい、思考が数秒停止する。

ナニ、それ? 一瞬、ほんの一瞬。図々しい勘違いをしそうになっちゃったし。私が忘れてるだけで、仕事で関わったことがあったのかな?

きっとそうだと、勝手に加速する鼓動に言い聞かせる。だけどこうしている間も、私の頬の近く。強い視線を感じて動くこともできない。

カツッと小さな音が響き、彼が私との距離を縮めるように近付いて来る。

「あっ、送ってくれたお礼を」

沈黙から逃れるようにそう言って、財布の小銭入れを開けようとした右手首がグイッと掴まれる。
不意なそれに体のバランスが崩れるとグラリと揺れた肩を優しく抱き寄せられた。
< 24 / 452 >

この作品をシェア

pagetop