素顔のキスは残業後に
閉ざされた扉の前で立ち止まった彼が私の腕を解いて、小さく笑った。

「面白いな、お前」

ナニ、それ? 笑うところじゃないでしょーが!?

完全に開き直って、「思いっきり叫んでやる」と心に決めると、彼はスーツの胸ポケットから透明なカードケースを取り出す。それを扉に設置された機械にかざすと、扉が静かに開いた。

ベッドがある仮眠室かと思っていたのに、月明かりが射し込む室内には総務部より最新型のパソコンやFAXが置かれていた。

気持ちを落ち着かせてドアに視線を流すと『宣伝部』の文字。
不思議いっぱいの顔で振り返った私に、柏原 柊司は唇の端を吊り上げる意地悪な笑みを浮かべた。

「もしかして、襲われちゃうかも――なんて、思った?」

「おっ……思ってないですよ!」

声を詰まらせたら、彼はくくっと肩を震わせながら顔を寄せてきた。

「妄想で終わるかどうかは、桜井次第。だけど?」
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