素顔のキスは残業後に
もう何度も続けられる挑発的な態度。

それでも何も言い返せなかったのは勝手に高鳴る鼓動が悔しかったのと、私から一度離れてデスクに歩み寄った彼に差し出されたA4サイズの用紙に驚いたから。

差し出された用紙に視線を落とすと、自分の宛名が書かれている。
自分でも情けないほどの掠れた声が零れた。

「『社内公募プロジェクト B-lover』二次審査役員面談のお知らせ?」

「その顔。やっぱり知らなかった? 二次通過者は宣伝部から所属部に連絡行ってるはずだけど」

それまでとは違う真剣な声で返されて、胸が軋み始める。

所属部ってことは、部長に連絡がいってるはずだ。急な出張で伝え忘れた? それとも――…

背筋にスッと冷たいものが走る。抑えつけていた感情が溢れそうになる。
左の小指にある古傷をそっと指でなぞりながら、気持ちを落ち着かせる為に小さく息を吐いた。

経営陣が一新された数年前。それまであった年次昇進制度は廃止された。
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