素顔のキスは残業後に
雅人はそこで一度息をついてから、続けた。


「だけどそれを話してくれないのは、俺に原因があるって思ってたし。

そう思ったら桜井には俺じゃないんだなって思った」


予想もつかなかった雅人の想いに、声を失う。


雅人がそんな風に思っていたなんて気付かなかった。


私を見つめる雅人の瞳が寂しげに細まる。

そんな彼の瞳。何度か見たことを思い出す。


きっと最後に見たのは――

曖昧だけど決定的な言葉で終止符を打たれた

あのとき。


『これから先を考えたら、一緒にいられないって思ったんだ』

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