素顔のキスは残業後に
何度も思い出して、その度に胸を苦しめた。

だけどいま思い出すと、せり上がる想いに胸が震えた。


これから先の未来――

雅人の未来に、私がいないことが悲しかった。


だけどそうじゃない。

深く傷を負ったあの言葉は、すべて私に向けられたものだった。


「桜井に踏みこんで聞けなかったのは、自分の懐の浅さを認めるのが悔しかったんだな、きっと。

つまらない男なんだよ、俺」


寂しげに笑う雅人に目の奥が熱くなる。

声にならない想いに駆られて、首を横に振ることしか出来なかった。

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