素顔のキスは残業後に
こちらに駆け寄って来るひとりの男性に目が奪われる。

近付いてくる黒い瞳と視線が絡み合う。


ただそれだけのことで涙腺が緩んでしまう自分は、

どれだけ彼のことが好きなんだろう。


そんなことを他人事のようにぼんやり思っていると、

近付いてくる彼に気付いた総務部のすべての女子から、「きゃっ」と悲鳴に近い歓声が上がった。



思わず目が奪われる端正な顔立ち。

走り姿だけでも洗練されたように見えてしまうのは、初めて見る彼の服装のせいだろうか。

潤みを増して霞んでいく視界。


駆け寄って来た男性は――



柏原さんだった。


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