素顔のキスは残業後に
午後3時。課長からの頼まれごとを終えてデスクに戻る。
すっかり冷えきったコーヒーを口にしてから新着メールをチェックしていると、人事部配信の社内メールの他に、【件名:重要 確認事項】と書かれたものがあった。

差し出し人は美香ちゃんからで、メールを開くのと同時にため息が漏れた。

『女子社員注目のレース。柏原賞は超大穴の万馬券。サクライ・ダークホースの独走か!?  なーんて、噂になってますよ?』

ははっ。サクライ・ダークホースって、ちょっと強そうだし。面白いこと考えるよねぇ。

それにしても食堂から連れ出されただけでこの騒ぎって。
噂が巨大化する前にちゃんと説明しとかないと、大変なことになりそうだなぁ。

痛み始めたこめかみを指で押さえつけると、受信ボックスに1通の新着メールが届いた。
差し出し人の名前を見て、頬が一瞬で強張る。

内容を見る前に削除しようと動かしかけたマウス。
その指先がピクリと止まったのは、少し離れたところで私を見つめる雅人と目が合ってしまったから。
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