素顔のキスは残業後に
「話したいことがある」

そんな短いメール文の最後には、フロアーの違う会議室の場所が書かれていた。

話したいことなんて何もない。そう返事して、無視すればいいのに――。

付き合っていた頃のようにアリバイ用の資料を手に取って立ち上がる私は、本当にバカだと思う。

もしかして、まだこんなことを思ってる?

「やっぱり俺には、友花が必要なんだ」

鼓膜まで響き伝わる優しい声で、強く抱き締めてくれる彼を。乾ききった心を潤してくれるその言葉を、私はいまでも待ち続けてる?

バカみたい。もう一度やり直すなんて、あり得ない。

だから二人っきりの会議室で向き合う雅人に、笑顔を浮かべた。


< 41 / 452 >

この作品をシェア

pagetop