素顔のキスは残業後に
私よりも先に視線を逸らした柏原 柊司はパイプ椅子の背を引いて腰かけると、私達の存在を無視して資料に目を通し始めた。

彼に迷惑はかけられない。感情が高ぶって上手く否定できなかったこと。

雅人は、きっと誤解してるから……。

そう思って振り返ると私が口を開くより先に、雅人の鋭い瞳が彼へと向けられた。


「柏原さん。一昨日の夜のこと桜井から話聞きました。まさかこのままで終わらすつもりはないですよねっ。どうするつもりですか?」

まさかの言葉に慌てて間に入ろうする。
だけど挑むように鋭さを帯びた雅人の瞳はまっすぐに彼だけを捉えて、言葉を挟むことを許さない。

張り詰めた空気にバサッと資料を閉じる音が響く。
ゆっくり立ち上がった柏原 柊司はこちらに歩み寄り、彼は感情を剥ぎ取った冷ややかな笑みを雅人に向けた。

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