素顔のキスは残業後に
「すげぇー顔。でも、さっきよりマシだけど」

「え?」

そんな気の抜けた声が唇から漏れる。
斜めに傾けた頭をペンでコツンと頭を叩かれた。

「ぼけっとしすぎなんだよ、桜井は。だから俺にいじられるし、別れた男につけこまれたりもする」

いや。違うでしょ? そうやって私をいじるのは底意地の悪い性格のせいでしょー。

唇を引き上げた意地悪な笑みに、そんなことを思う。

そんな笑みも想定内。だけど一瞬視線を外してから向けられた瞳の柔らかさに胸が微かに震える。

見つめ合う一瞬。
それまでに聞いたどんな声よりも真剣なそれが耳の奥まで響いた。

「だから二度とアイツに、あんな顔見せんな」
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