素顔のキスは残業後に
会社から歩いて5分ほどの距離にある和風居酒屋。
金曜とあって店内は混み合っていたけれど、待ち時間10分ほどで個室座敷席に落ちつくことができた。
五月さんは空になった中ジョッキをテーブルに置くと、テーブルを挟んで座る私を酔いが回った瞳で見つめる。
「みんなさぁー付き合い悪いよねぇ。
いいアイディアなんてさー、お酒を呑みながらじゃないと浮かぶわけないのに。ね。
友花ちゃんもそう思うよねー?」
もう何回目かの同じ質問に苦笑いで頷くと、私の隣からわざとらしいため息が漏れた。
「桜井。適当にあしらっとけ。毎日、毎っ――日。
飲み歩いてるお前に、誰が付き合いきれんだよっ。家族に愛想尽かされたオヤジ丸出しだな」
柏原さんは冷たく吐き捨てると、空になった枝豆の皮を小皿に投げ捨てる。
「冷た! ――ったく、会社の女性陣はこんな冷たい男のどこがいいんだろ。
本当、謎。超、謎。今世紀、最大の謎!!
死んでも分からないし、分かりたくもなーい」
「言ってろ」
「ぶー」
「頬膨らませて許せるのは、10代までだから」
「むかつく!」
兄弟喧嘩のような睨み合いを続ける二人。