素顔のキスは残業後に
そんな二人は家がご近所の幼馴染らしい。

二人のやり取りが面白くて、

いつもより早いペースでグラスに手を伸ばしていたら、空になっていたことに気付く。


うろうろと視線を泳がせると、横からカクテルのメニューを手渡された。


「あっ。ありがとうございます」

「……」


私の言葉に微かに頷いた柏原さんは一度五月さんに視線を流してから、

そっと私に耳打ちした。


「酒豪の五月に付き合うことねぇーから」


耳朶をふわっと吐息が掠める。気遣うような優しい響きに胸が震える。


お酒が一気に体に回っていくように耳まで熱くなって、慌ててメニューに視線を落とした。


なんかおかしいよ、私。だけど柏原 柊司だって悪い。


勝手に加速する鼓動を止められなくて、心の中でいつもの『フルネーム呼び』に変換する。


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