素顔のキスは残業後に
よかった。聞かれてない。でも、いい加減ふっきらないとダメだよね。


考え込むようにグラスに落とした視線。

「そうそう」と、五月さんの明るい声が引き上げてくれた。


「由梨さんもアレが上手くいったら、東京のマンション売りに出さなきゃだねー。
まぁでも、二人の気持ちがあってのものだけど」


「えっ。売りに出すって、そんな話もあるんですか? でも二人の気持ちって」


買い手の不動産会社の気持ちってこと?


顔を斜めに傾ける私に五月さんは「ここだけの話だよ?」とニヤリと笑った。


彼女はテーブルの隅にお皿を避けてから、有名女優が表紙を飾っている雑誌を鞄から取り出す。


テーブルの空いたスペースに雑誌を見開きで広げると、トンッとあるページに人差し指を立てた。
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