素直じゃない
「有希」
わあああ、と頭の中がパニックになるあたしに対して、浅香は憎らしいくらいに平然としているように見えた。
カタン、とさっき倒した椅子を直して座りながら、あたしの耳元に口元を寄せて。
「カワイイ」
「ふ、ざけないでよ!今の流れでいったいどこが」
動揺しながらも言うと、浅香は「さっきも言っただろ」と笑う。
「だから、素直じゃないとこ!」
「っ!」
ドキン。
心臓が震えて、胸が痛いほどにきゅんとなったけど、それを素直にあらわせるはずもなくて。
「か、簡単にそういうこと言わないでよ、バカ……!」
また可愛くないセリフで返してしまうあたしは、やっぱりどこまでも。
素直じゃないんだ。
*END*