一筋のヒカリ。
そして、それは唐突に終わりを迎えた。

「・・・ッ」

突いた先には、誰も居ない。
男子の大半はお喋りをしていて、まだ来ていなかったのだ。

「・・・・。」

正直、落胆した。
その事にも、何故か自制心を失ってしまった自分にも。

(馬鹿みたい)

人知れず、ふっと吐いた溜息と共に、煮え滾っていた心も冷めていった。

「近くでよかったね!」

後ろの席だったらしい佳織に話しかけられ、美沙は振り向いた。
本当は、かなりがっくりきていたので話をする気になどなれなかったが、まさかそうやって佳織に言う訳にもいかないので、ちょっと微笑んだ。

「うん、よかったねー」

言葉の単純さを吹き消すように、美沙はもう一度、確かめるようににっこりと笑う。
たった一言でも、言葉をかければ会話は続いていくものだと思う。
佳織は更に続ける。

「あたしなんて隣が裕太だよー!最悪~」

すぐ近くに本人が居るのに、佳織はまったく気にしない。
むしろ、楽しそうに笑って言った。
その台詞に、横に座っていた五木裕太が一瞬ショックを受けた顔をしたが、佳織は見ようともしない。
裕太は、かなりのナルシスト、という奴だ。
噂によると、タレント志望、らしい。
かなり信憑性は高い・・・はずだ。
何しろ、裕太自身も否定していない。
正確なところは、噂をしている当人達にもよく分からないのだけれど。
美沙は思いながら、無視され続けている可哀想な裕太をチラリ、と見てから、もう一度佳織の方を向き、口を開く。

「・・・!」

言おうとした言葉は、言えなかった。
目の前にいきなり男子が現れたから、では理由になるはずも無いのだが。
事態を飲み込むまでに、美沙はかなりの時間を費やした。

(そういえば)

すっかり忘れていた。

自分の隣に座る人間が居るはずなのだ。
別に、男子がここに突然出てきたって、不自然ではない。
そんな当たり前の事くらい、覚えている。
ただ、何故か、見たことの無い顔に思えた。

何でだろう。

そんな風に混乱するほどに、美沙は平常心を失っていた。
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