【B】姫と王子の秘密な関係
「晃介、さっきの奴らは由毅が何とかする。
お前の立ち回りも、証拠隠滅しておくさ。
それこそ、お前んとこの祖父さんの耳に入ったら
大変だろうからな。
けど彼女のこと付き合うなら、真剣に考えろよ」
高崎さんのことを良く知ってそうなその人は、
証拠隠滅とか、物騒なキーワードを並べながら会話を続けてた。
要所要所のキーワードが耳に届くものの、
私が本当にその会話の意味を知るのは、そのずっとまだ後のこと。
今の私は突然の出来事に心がついていかないままだった。
「お嬢さん、名前は?」
ふいに運転しているその人が私に声をかけてきた。
「遠野音羽です。
音に羽で、音羽です」
「音羽ちゃんな。
オレは勇希。
晃介の兄貴の親友。
こいつもオレにとっては弟みたいな奴だからな。
まぁ、宜しく頼むわ」
そうやって話す勇希さん。
勇希さんが何か言うたびに、
高崎さんは助手席から何かを言ってる。
いつの間にか勇希さんの運転する車は、
高そうなマンションの前で停車した。
「有難うございます。勇希さん」
「ええって。
クリスマスイヴより一日早いけど、
楽しみな」
勇希さんはそんな意味深な言葉を残して車を再度走らせ始めた。
マンションの入り口前、
指紋と網膜で管理されているらしい、その場所でチェックを受けると
ガラス戸がゆっくりと開く。
ガラス戸を潜った先は、
テーブルとソファーが並んでエントランスと受付のカウンター。
何、ここって本当にマンション?
ホテル顔負けのその場所に、
高崎さんは何事もないように歩いていく。
「お帰りなさいませ、高崎さま。
恐れ入ります、お連れ様は当マンション初めての訪問者の方ですね」
「あぁ」
「お客様、恐れ入りますがこちらの用紙を記載して頂いて宜しいでしょうか?」
カウンターで見せられた用紙は、身元証明に関する書類。
住所・氏名・年齢は勿論のこと、高崎さんとの関係を記す欄もあった。
高崎さんとの関係?
何?
本当は恋人や彼女って堂々とかければ嬉しい。
だけど実際は、趣味仲間?上司と部下?
空白のまま、何も記入できずにいた私に
高崎さんは、フォローするように受付のお姉さんに告げた。
「川下(かわもと)さん、彼女追い詰めないで。
今は趣味仲間兼、職場の関係者。
けど……近いうちに、彼氏・恋人に昇格予定だから
それを踏まえて対応宜しく。
彼女だけで来た時もマンションの門潜れるようにしておいて」
高崎さんの言葉は、私の頭の中を真っ白にさせる。
その後もセキュリティーチェック宜しく、
金属探知機の検査と、手荷物の確認の後エレベーターのある奥へと案内されて
気が付いたら、高崎さんのマンションの一室に辿り着いていた。
必要最低限の家具に、必要最低限の食器。
生活感が漂い過ぎる空間ではないただっ広い部屋。
1Rとは名ばかりのめちゃくちゃ広い空間に区切られた
ベッドルームだけが、生活感を感じさせる場所だった。
ベッドサイドの隣には、クローゼットらしきスペース。
そこには、何度かイベントで見た事がある
土方コスの衣装である着物が着物ハンガーに吊るされてた。
「あっ、これ……」
アキラさんが高崎さんだって言う紛れもない証拠を見つけた。
駆け寄って、その着物に手を伸ばす。
その隣には、今度一緒にやろうって約束してたTrancemigrationの
懐聖(かいせい)の衣装が準備されていた。