【B】姫と王子の秘密な関係
「有難うございます。
桜吏さん」
「どういたしまして」
そう言いながら、桜吏さんは嬉しそうに兄さんを見つめた。
「晃介、表に大蔵を待機させている。
彼女のところに行くんだろ。
車、自由にしていいよ。
俺は、桜吏さんのところでお世話になるから」
由毅兄さんの声に俺はただ黙って一礼すると、
店舗を飛び出して、リムジンへと飛び込む。
リムジンは夜の道を、
音羽さんの自宅を目指して走って行く。
店舗の近くで、
リムジンから降りると俺は向坂の店内へと姿を見せた。
「お疲れ様です、高崎マネージャー」
そう言ってカウンターから声をかけるのは、
店長である音羽さんのお母さん。
「音羽さんのシフトは何時までですか?」
「音羽はもう終わります。
21時まわりましたから、私はお構いも出来ませんけど
良かったら奥の扉から上がってください」
店長の許可を貰って、居住区へと続く階段をのぼり
初めて入った音羽さんの部屋で、俺はペンダントを手渡した。
クリスマスが終わると、
コンビニのムードは一気に年末年始へと切り替わっていく。
年越しを迎えると、早谷の一族の年始のあいさつがあり、
現在の研修状況の報告と、
早谷の名に戻るための春に向けての裏準備が始まっていく。
デートらしいデートを重ねることも出来ないまま、
俺が音羽さんと逢えるのは、店舗に訪問した時のみとなり、
それ以外は、メールか電話でのみ。
それすらもまともに出られなくなってしまった。
そんな矢先、
本部に顔を出したとたんに経理部から電話が入る。
生憎、小川さんは今日は休み。
小川さんの代理として、電話応対した俺は、
突きつけられた問題に、声を失った。
「桜川1丁目店より、ここ1週間売り上げの送金が停止しています。
桜川1丁目店のオーナーを呼び出して事態の把握と究明をお願いします」
突然の出来事に、
休み中の小川さんに連絡をしたうえで、桜川1丁目店へと向かう。