【B】姫と王子の秘密な関係
毎日、銀行の窓口が稼働している15時までに、
本部宛に振り込まれるはずの売上金額。
15時までに売上金額を送金しなかったら、ペナルティなどが発生する規約。
今まで1日たりとも、遅れることなく送金されていたのに
何故、ここ数日は送金されなくなったのか……。
契約している店舗が、売り上げを送金しなかった場合、
SVが求められる業務は、未入金金額の回収。
一種の取り立て屋と同じような現状になる。
それは遠野オーナーにとっても、精神的に応えるモノだと思うし、
桜川1丁目店を半ば、押し付けるようにオーナーにした、
俺たちにも責任があるような気がして俺自身も落ち着かなかった。
「お疲れ様です」
そう声をかけて事務所に入ると、
シフトに入っていた音羽さんが、すぐに事務所に入ってきた。
「お疲れ様です。
こう……、高崎マネージャー」
俺の名前を呼びかけて、
慌てて職場と言うこともあって苗字に呼びかえる。
「その顔だと、もう店舗に連絡は来てるのかな?」
「はいっ。
先ほど小川さんから凄い剣幕で電話がありました。
でも私……信じられなくて。
私が日報を作った後、売上金は専用の鞄に入れて送金の直前まで
両替を繰り返しながら、金庫に入ってるんです。
金庫の暗証番号も、スタッフしか知りません。
しかも知ってる人数は限られてます。
売上金を盗んだのは、内部スタッフと言うことですか?」
思いつめた表情で、俺に話しを切りだす音羽さんの体は
震えている。
暫くすると、遠野オーナーが店舗に現れて
謝罪しながら、未送金だった5日営業分の売上金を謝罪しながら小川さんへと手渡した。
金額にして500万と少し。
それらの出費を、
オーナーは自腹で本部へと支払う。
その一件から、
遠野オーナーの人間不信は始まっていった。
桜川一丁目店のスタッフは連日、警察の取り調べを受けることになり
店の空気も殺伐とし始めた。
スタッフの態度の悪さや、ピリピリと空気は
次第にお客様を遠のかせていく。
日に日に激減する客。
一気に落ちる売上。
周囲が信用できなくなった遠野オーナーは、
音羽さんが心配するのも静止して、
朝夜とわずして店舗に詰めるようになった。
桜川一丁目店だけだった気まずい空気は、
やがで一号店である、向坂店にまで飛び火してしまう。