【B】姫と王子の秘密な関係
「由毅、晃介遅いぞ」
俺たちの姿を見て声をかけるのは、
俺と兄さんにとっての、養父母となる義理の両親。
早谷仁人【はやせ きみと】と千聖【ちさと】夫人。
「お養父さん、遅くなりました。
僕が少し寝過ごしてしまって」
そう言って兄さんがすかさず、
俺をフォローするように弁解する。
「由毅、上に立つものとしてもう少し自身の行動に責任を持ちなさい。
晃介、君もしっかりと秩序を守れる人になりなさい」
「はい。
肝に銘じます」
二人して声を揃えて返事をする。
俺が今居る早谷一族は、財閥ゆえの様々な柵の中で世界がまわっている。
早谷コンツェルンの現会長は、
祖父である、早谷礼司【はやせ れいじ】。
会長夫人でもあり、正妻は早谷小由里【はやせ さゆり】。
二人とも、今年78歳を迎える。
ただ、小由里会長夫人は俺の祖母にはなり得ない。
俺は、礼司会長が外で作った愛人・川野澪菜【かわの れいな】との間に生まれた
母、川野礼菜【かわの あやな】と父、高崎幸晃【たかさき ゆきてる】の間に誕生した子供。
会長の愛人だった祖母が、母を産み、会長の認知を受けて育て、
母は、父と結婚するために祖父の庇護から飛び出す。
そして俺が生まれたものの、父の会社であるコンビニとスーパーの運営会社が赤字が続いて
倒産間近になった時、母親が頼ったのが母にとっての父親になる、現早谷会長。
その際、会長の心を動かしたのは
由毅兄さんのお父さんになる、早谷杏弥【はやせ きょうや】氏。
杏弥氏の助言で、会長は父親の会社を助けるように
早谷の子会社へと抱かれた。
ただその後、早谷一族が辿った道程は悲惨で
杏弥氏の失踪、そして死亡。
杏弥氏が失踪したころから、母親は自分を責めるようになって
心を病み自殺。
由毅兄さんの母である、紗千【さゆき】さんは
一族を離れ、生家である西園寺に戻り、
由毅兄さんは、今の養父母の養子となった。
そして俺の父親も、全ての責任をその身に背負う様に
働き詰めで、過労死をしてしまい、
俺自身も、今の養父母に迎え入れられた。
こんな状況下もあって、
俺自身のこの家でのポジションは極めて弱い。
「以上で、今日の会議は終了する。
あぁ仁人、明後日NYから客人が来る。
今後の早谷に関わる重要な客人の為、持て成しの準備を。
由毅、仁人を手伝いなさい。
NYからの客人は、櫻柳家が縁で結ばれる。
桜吏【おうり】さんは、どうだ?」
「はいっ。
櫻柳桜吏【さくらやぎ おうり】様とは、
先日もお会いする時間があり、
紫綺【しき】会長と翔恋【かれん】夫人ともお会いすることが出来ました。
父と話し合って、早々に準備を進めます」
「頼んだぞ。
さて、晃介の方も婚約者選びを始めておる。
おって、連絡する」
突然振られる、婚約者と言う言葉。
俺は何も言えずに、膝の上で握り拳を作る。